羊皮をきた召使
お前は羊皮《やうひ》をきた召使だ。
くさつた思想をもちはこぶおとなしい召使だ。
お前は紅い羊皮をきたつつましい召使だ。
あの ふるい手なれた鎔炉のそばに
お前はいつも生生《いきいき》した眼で待つてゐる。
ほんたうにお前は気の毒なほど新らしい無智を食べてゐる。
やはらかい羊の皮のきものをきて
すずしい眼で御用をきいてゐる。
すこしはなまけてもいいよ、
すこしはあそんでもいいよ、
夜になつたらお前自身の考をゆるしてやる。
ぬけ羽のことさへわすれた老鳥《おいどり》が
お前のあたまのうへにびつこをひいてゐる。
のびてゆく不具
わたしはなんにもしらない。
ただぼんやりとすわつてゐる。
さうして、わたしのあたまが香のけむりのくゆるやうにわらわら[#「わらわら」に傍点]とみだれてゐる。
あたまはじぶんから
あはう[#「あはう」に傍点]のやうにすべての物音に負かされてゐる。
かびのはえたやうなしめつぽい木霊《こだま》が
はりあひもなくはねかへつてゐる。
のぞみのない不具《かたは》めが
もうおれひとりといはぬばかりに
あたらしい生活のあとを食ひあらしてゆく。
わたしはか
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