いてをれ。


  むらがる手

空はかたちもなくくもり、
ことわりもないわたしのあたまのうへに、
錨《いかり》をおろすやうにあまたの手がむらがりおりる。
街のなかを花とふりそそぐ亡霊のやうに、
ひとしづくの胚珠《はいしゆ》をやしなひそだてて、
ほのかなる小径の香《か》をさがし、
もつれもつれる手の愛にわたしのあたまは野火のやうにもえたつ。
しなやかに、しろくすずしく身ぶるひをする手のむれは、
今わたしのあたまのなかの王座をしめて相姦《さうかん》する。


  怪物

からだは翁草《おきなぐさ》の髪のやうに亜麻色の毛におほはれ、
顔は三月の女鴉《をんなからす》のやうに憂欝にしづみ、
四つの足ではひながらも
ときどきうすい爪でものをかきむしる。
そのけものは ひくくうめいて寝ころんだ。
曇天の日没は銀のやうにつめたく火花をちらし、
けもののかたちは 黒くおそろしくなつて、
微風とともにかなたへあゆみさつた。


  花をひらく立像

手をあはせていのります。
もののまねきはしづかにおとづれます。
かほもわかりません、
髪のけもわかりません、
いたいたしく、ひとむれのにほひを背おうて、

前へ 次へ
全63ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大手 拓次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング