いてをれ。
むらがる手
空はかたちもなくくもり、
ことわりもないわたしのあたまのうへに、
錨《いかり》をおろすやうにあまたの手がむらがりおりる。
街のなかを花とふりそそぐ亡霊のやうに、
ひとしづくの胚珠《はいしゆ》をやしなひそだてて、
ほのかなる小径の香《か》をさがし、
もつれもつれる手の愛にわたしのあたまは野火のやうにもえたつ。
しなやかに、しろくすずしく身ぶるひをする手のむれは、
今わたしのあたまのなかの王座をしめて相姦《さうかん》する。
怪物
からだは翁草《おきなぐさ》の髪のやうに亜麻色の毛におほはれ、
顔は三月の女鴉《をんなからす》のやうに憂欝にしづみ、
四つの足ではひながらも
ときどきうすい爪でものをかきむしる。
そのけものは ひくくうめいて寝ころんだ。
曇天の日没は銀のやうにつめたく火花をちらし、
けもののかたちは 黒くおそろしくなつて、
微風とともにかなたへあゆみさつた。
花をひらく立像
手をあはせていのります。
もののまねきはしづかにおとづれます。
かほもわかりません、
髪のけもわかりません、
いたいたしく、ひとむれのにほひを背おうて、
く
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