汝《なれ》をみむことを


  過ぐるもの

あたたかき 秋の日のゆふべなり
こころは 石のうへにすわりて
とどめがたきものの すぐるをききわけつ
おもてをふせて
掌《て》のなかに 夢をゑがきぬ
しろき夢を


  ひとつの花

こずゑのうへに
ひとつの花あり
そのいろは あはくして
ひかりのごとく
地にむかひて うなだれたり


  春のあをさに

ひらかざる 花のおもわに身をなげて
このながながし 病気《いたつき》の
なやみの刺《とげ》をぬぎすてむ
薄氷《うすらひ》の溶くる春のあをさに


  白き芥子の花

わがおもひのいづみ
かのひとは しろき芥子《けし》の花のごとく
ひとすぢの みちのうへにうかべり
はてしなきゆふべの つながりきたる
ひとすぢの
いとほそき みちのうへに にほひつつあり


  さびしさ

みしらざる にほひの花よ
いづこにありや
ついばみの鳥 あらざるまへに
みしらざる にほひの花よ


  真実

汝がほのかなる ことのはを
われはきく
もゆる火のごとく


  形なき影をもとめて

かたちなき かげをもとめて
さだめなく 暮るるならむか
みちのべに 雨
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