エ
6 季節感 19[#「19」は縦中横] 生物感
7 言語感 20[#「20」は縦中横] 光度感
8 年齢感 21[#「21」は縦中横] 触感
9 韻律感 22[#「22」は縦中横] 粘着感
10[#「10」は縦中横] 方位感 23[#「23」は縦中横] 湿度感
11[#「11」は縦中横] 振幅感 24[#「24」は縦中横] 運命感
12[#「12」は縦中横] 色彩感 25[#「25」は縦中横] 生長感
13[#「13」は縦中横] 金属感
――図解参照を乞ふ
◇
さうして、この「感じ」が一つ一つ認められるとともに、また全体が共鳴《ともな》りして、絶えまない水の流れゆくやうな交響楽を奏するのである。
で、この綜合感と個々の感じとは、即《つ》き、離れ、即き、離れつつ諧調をなし、破調をなして旋回するのだ。
その波紋を作つて進みきたり吾々に呼びかける、香水の表情の幻想の渦は、それぞれに、ある統一のもとに動いてゐる。その幻想の渦の形と色と速度とは、それを感じる者の感情の質量とによつて千変万化することは言ふまでもないが、その限りない変化の中に、なほ分つことの出来ない「自然の特質」が貫き漂つてゐる。
◇
けれども、その人の持つ感覚世界が一定の型のなかにとどまつてゐて、香水の発する放射線と快き合流を為《し》ない時は、その香水は、その人にとつて「開かざる蕾の花」であるか、又は、「半開の花」である。
かういふ人は、香水の話しかける言葉を読み得ない人である。香水の言葉と自分の感情とが手を結びあはせないのである。その言葉のこゑが聞えないのである。
香水の言葉を読みうるやうに成るためには、単純な花の香料から入つてゆき、最後に香料の極秘の殿堂に漫歩すべきであらう。
◇
ここに難問がある。heliotrope《エリオトロープ》(天然香料)と heliotropine《エリオトロピーヌ》(人工香料)との如き二つのものの表情的差別である。この二者は、放射する外貌は同じやうであるけれど、後者の方は前者に比して、表情線がこはばつてゐて、前者のやうな豊富な言葉の波動と幻想量とを有してゐない。二者の比較は、しかし、なかなかむづかしい。
総じて人工香料の香気の表情は沈澱性を帯び、その渦紋の回転数も少なく、どこかしら金属性の影を偲ばせるのが欠点である。そして、微《かす》かながらも、吾吾の夢幻への飛翔に対し、ある種の反撥性を蔵してゐる。
けれどもです、自然の和《なご》みのなかに溶け入る黄金の針のやうに微動し戦慄する感受性を開花させないならば、人工香料の平面的な、固定的な、直線的な表情でも、十分に酔《ゑ》ふことが出来るかもしれない。
要するに、香水を真に味ふには、見えざる感性の触手をはぐくみそだてることが捷径だ。
吾々の見えざる触手が感覚の花の盛りを呼びきたすならば、香水の移りゆく香気は、まどみ[#「どみ」に「ママ」の注記]のなかに羽を搏《う》つ蝶のごとく、彼方此方に吾々の感情の色どりを植ゑてゆくだらう。
底本:「日本の名随筆48 香」作品社
1986(昭和61)年10月25日第1刷発行
底本の親本:「大手拓次全集 第五巻」白凰社
1971(昭和46)年8月
※冒頭の「ライオン歯磨本舗・広告部 悪の華」は、底本では署名の左に添えられています。
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2006年9月19日作成
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