ネらでは歸り來ざるべしといふ。その面色その態度を察するに、何とやらん言を構へて我を欺く如くなり。されどわれは又此人の平生を顧みて、わが疑の邪推なるべきをおもへり。主人は我を留めて晩餐を供せり。卓に就《つ》きたる間、我は限なき寂寞を感じ、又主人の面の爽《さはや》かならざるを覺えぬ。われはおそる/\その不興の因由《もと》を問ひしに、主人頭を掉《ふ》りて[#「掉りて」は底本では「悼りて《ふ》りて」]、否、益《やく》なき訴訟の事ありて、些《ちと》の不安を感ずるに過ぎず、ポツジヨ[#「ポツジヨ」に傍線]は久しくおとづれず、おん身さへ健康すぐれ給はざる如し、兎も角も此|一盃《ひとつき》を傾け給へといひつゝ、我前なる杯に葡萄酒を注がんとせしに、忽ちその手を駐《とゞ》めて、おん身は心地惡しきにはあらずやと叫びぬ。そは我面色の土の如く變じたればなるべし。われは室内《へやぬち》の物の旋風の如く動搖するを覺えて、そのまゝはたと地に僵《たふ》れぬ。
 此より我は半醒半睡の間に在ること幾日なるを知らず。市長は時として我|臥床《ふしど》の傍に坐して、われに心を安んじて全快を待たんことを勸め、ロオザ[#「ロオザ」に
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