ノ會せり。こはわが出納《すゐたふ》の事を托したる銀行の主人《あるじ》なり。會するものはいと多かりしかど、席上一の我が相識れる婦人なく、又一の我が相識らんことを欲する婦人なかりき。
 會話は昨夜《よべ》の暴風の事に及べり。ポツジヨ[#「ポツジヨ」に傍線]は舟人の横死と遺族の窮乏とを語りて、些少なる棄損《きえん》のいかに大いなる功徳《くどく》をなすべきかを諷し試みたれども、人々は只だその笑止なることなるかなとて、肩を聳《そびや》かして相視たるのみにて、眞面目にこれに應《こた》ふるものなく、會話は餘所《よそ》の題目に移りぬ。
 頃《しばら》くして席は遊藝を競ふところとなり、ポツジヨ[#「ポツジヨ」に傍線]は得意の舟歌《ふなうた》(バルカルオラ)を歌へり。我は友の笑《ゑみ》を帶びたる容貌《おもざし》の背後《うしろ》に、暗に富貴なる人々の卑吝《ひりん》を嘲《あざけ》る色を藏《かく》したるかを疑ひぬ。舟歌畢りしとき、主婦は我に對ひて、君は歌ひ給はずやと問ひぬ。われ、さらば即興の詩一つ試みばやと答へぬ。四邊《あたり》には渠《かれ》は即興詩人なりと耳語《さゝや》く聲す。婦人の群は優しき目もて我を促し、
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