アの翁《おきな》もあやしき藥草を知ること、かのフルヰア[#「フルヰア」に傍線]といふ媼に劣らずなど云ふものありとぞ。此貴人の使なりとて、「リフレア」着たる僕《しもべ》盾銀《たてぎん》(スクヂイ)二十枚入りたる嚢《ふくろ》を我に貽《おく》りぬ。
 翌日の夕まだ「アヱ、マリア」の鐘鳴らぬほどに、人々我を伴ひて寺にゆき、母上に暇乞《いとまごひ》せしめき。きのふ祭見にゆきし晴衣《はれぎ》のまゝにて、狹き木棺の裡《うち》に臥し給へり。我は合せたる掌に接吻するに、人々|共音《ともね》に泣きぬ。寺門には柩《ひつぎ》を擔ふ人立てり。送りゆく僧は白衣着て、帽を垂れ面を覆へり。柩は人の肩に上りぬ。「カツプチノ」僧は蝋燭に火をうつして挽歌をうたひ始めたり。マリウチア[#「マリウチア」に傍線]は我を牽《ひ》きて柩の旁《かたへ》に隨へり。斜日《ゆふひ》は蓋《おほ》はざる棺を射て、母上のおん顏は生けるが如く見えぬ。知らぬ子供あまたおもしろげに我めぐりを馳せ※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]りて、燭涙の地に墜ちて凝りたるを拾ひ、反古《ほご》を捩《ひね》りて作りたる筒に入れたり。我等が行くは、きのふ祭の行列の
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