覺えき。
 幾《いくばく》もあらぬに我等は又羅馬に歸りぬ。姫は二三週の後には尼寺に返り給ふべく、返り給ひては直ちに覆面の式を行はせらるべしと傳ふ。姫の長き髮はこれを截《き》り、その身には生きながら凶衣を被らしめ、輓歌《ばんか》を歌ひ鯨音《かね》を鳴し、法《かた》の如く假に葬《はうむ》りて、さて天に許嫁《いひなづけ》せる人となりて蘇生せしむ。是れ式のあらましなり。姫は面に喜の色を湛へてこれを語りぬ。われは聞くに忍びずして、いかなれば君は自ら壙穴《つかあな》を穿《うが》ちて自ら下り入らんとはし給ふぞといひぬ。姫は色を正して、さる詞を人にな聞せそ、此塵の世に心|牽《ひ》かるゝことおん身の如くならんも拙《つたな》し、少しは後の世の事をも思へかしと宣給ふ。その聲音《こわね》さへ常ならぬに我はいたく驚きぬ。霎時《しばし》ありて、姫は詞の過ぎたるを悔み給ひしにや、面に紅を潮して我手を取り、アントニオ[#「アントニオ」に傍線]とても我心の平和を破り、我に要《えう》なき物思せさせんとにはあらざるべしと宣給ふ。我は詞なくて姫の金蓮の下に臥し轉《まろ》びつ。
 別《わかれ》の舞踏會は御館《みたち》にて催さ
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