鰲ャ《とこ》と見るべし。されどポムペイ[#「ポムペイ」に二重傍線]にありといふ床にも、かく美しき色あるはあらじ。このあした、風といふもの絶てなかりき。花の落着きたるさまは、重き寶石を据ゑたらむが如くなり。窓といふ窓よりは、大なる氈を垂れて石の壁を掩《おほ》ひたり。この氈も、花と葉とにて織りて、おほくは聖書に出でたる事蹟の圖を成したり。こゝには聖母と穉《をさな》き基督とを騎《の》せたる驢《うさぎうま》あり、ジユウゼツペ[#「ジユウゼツペ」に傍線]その口を取りたり。顏、手、足なんどをば、薔薇の花もて作りたり。こあらせいとう(マチオラ)の花、青き「アネモオネ」の花などにて、風に翻《ひるがへ》りたる衣を織り成せり。その冠を見れば、ネミ[#「ネミ」に二重傍線]の湖にて摘みたる白き睡蓮《ひつじぐさ》(ニユムフエア)の花なりき。かしこには尊きミケル[#「ミケル」に傍線]の毒龍と鬪へるあり。尊きロザリア[#「ロザリア」に傍線]は深碧なる地球の上に、薔薇の花を散らしたり。いづかたに向ひて見ても、花は我に聖書の事蹟を語れり。いづかたに向ひて見ても、人の面は我と同じく樂しげなり。美しき衣|着裝《きよそ》ひて
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