聞きつゝ、「アヱ、マリア」の祈をなしつ。アンジエリカ[#「アンジエリカ」に傍線]が家に歸り着きて、我心は纔におちゐたり。
新に編みたる環飾一つを懸けたる、眞鍮の燈には、四條《よすぢ》の心《しん》に殘なく火を點し、「モンツアノ、アル、ポミドロ」といふ旨《うま》きものに、善き酒一瓶を添へて供せられき。農夫等は下なる一間にて飮み歌へり。二人代る/″\唱へ、末の句に至りて、坐客|齊《ひと》しく和したり。我が子供と共に、燃ゆる竈の傍なる聖母の像のみまへにゆきて、讚美歌唱へはじめしとき、農夫等は聲を止めて、我曲を聽き、好き聲なりと稱《たゝ》へき。その嬉しさに我は暗き林をも、怪しき老女をも忘れ果てつ。我は農夫等と共に、即興の詩を歌はむとおもひしに、母上とゞめて宣給《のたま》ふやう。そちは香爐を提《ひさ》ぐる子ならずや。行末は人の前に出でゝ、神のみことばをも傳ふべきに、今いかでかさる戲せらるべき。謝肉《カルネワレ》の祭はまだ來ぬものを、とのたまひき。されど我がアンジエリカ[#「アンジエリカ」に傍線]が家の廣き臥床《ふしど》に上りしときは、母上我枕の低きを厭ひて、肱さし伸べて枕せさせ、頼《たのみ》あ
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