Nの漸く故《もと》に復《かへ》らんとする頃、公子夫婦は又我床頭にありて、何くれとなく語り慰め給ひき。夫人。アントニオ[#「アントニオ」に傍線]よ。おん身の往方《ゆくへ》まだ知れざりし程は、我等は屡※[#二の字点、1−2−22]おん身の爲めに泣きぬ。おん身の不思議に性命を全うせしは、聖母の御惠なりしならん。今はおん身情|強《こは》きも、よも再び拿破里に住みて、ベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]と面をあはせんとは云はぬならん。公子。そは勿論なるべし。われ等は只だ羅馬に伴ひ歸りて、曾て過《あやまち》ありしアントニオ[#「アントニオ」に傍線]は地中海の底の藻屑となりぬ、今こゝに來たるはその昔幼く可哀《かは》ゆかりしアントニオ[#「アントニオ」に傍線]なりと云はん。夫人。さるにても便《びん》なきはジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]なり。才も人に優れ情《なさけ》も深かりしものを、いかなれば神は末猶遠き此人の命を助けんとはし給はざりけん。惜みても餘あることならずやなど宣給《のたま》へり。
 醫師《くすし》は屡※[#二の字点、1−2−22]病牀をおとづれて、數時間を我室に送れり。この人は拿破里
前へ 次へ
全674ページ中494ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
アンデルセン ハンス・クリスチャン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング