セず。かへす/″\も奇《く》しく怪しきは、彼洞天の光景と舟中の人物となり。
 我物語を傍聽《かたへぎゝ》せし醫師は公子に向ひ頭を傾けて、さては君の此人を搜し得給ひしは彼魔窟の畔《ほとり》なりけるよといひぬ。公子。さなり。さりとて君は世俗のいふ魔窟に、まことに魔ありとは、よも思ひ給はじ。醫師。そは輒《たやす》く答へまつるべうもあらぬ御尋なり。自然は謎語《なぞ》の鉤鎖《くさり》にして吾人は今その幾節をか解き得たる。
 我心は次第に爽かになりぬ。抑※[#二の字点、1−2−22]《そも/\》わが見し洞窟はいかなる處なりしぞ。舟人の物語に、この石門の奧に光りかゞやくところありといひしは、わが漂《たゞよ》ひ着きし別天地を斥《さ》して言へるにはあらざるか。かの怪しき翁の舟の、狹き穴より濳《くゞ》り出しをば、われ明かに記憶せり。夢まぼろしにてはよもあらじ。さらば彼洞窟は幽魂の往來《ゆきき》するところにして、我は一たび其境に陷り、聖母《マドンナ》の惠によりて又|現世《うつしよ》に歸りしにや。われはかく思ひ惑《まど》ひつゝも、わが掌《たなぞこ》を組み合せて彼舟中の少女の上を懷ひぬ。まことに彼少女は我を救へ
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