vに傍線]の君は心を勞し、公子はあまたたび人を馳せて、その歸るを候《うかゞ》はせぬ。ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]はやうやくにして來りぬ。漫歩《そゞろありき》して岐《みち》に迷ひ、農夫に教へられて纔《わづか》に歸ることを得つといふ。夫人その姿を見て、げにおん身の衣《きぬ》は綻《ほころ》びたりといへば、ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]手もてその破れたる處を摘《つま》み、この端の斷《ちぎ》れたるは棘《いばら》にかゝりて跡に殘りぬ、われは直ちに心附きぬれど、奈何《いかん》ともすること能はざりき、このあたりにて斯くまで道を失はんとは、流石《さすが》に思掛けざりき、目暮の景色を弄《もてあそ》ぶ中《うち》、俄に暗くなりしを見て、近道より歸らんとおもひしが事の原《もと》なりといふ。一座は此遊の可笑《をか》しき話柄《わへい》を得たりとて打ち興じ、杯を擧げて、此|迷失兒《まよひご》の健康を祝しつ。こゝの葡萄酒はいと旨きに、人々醉を帶び、歡を竭《つく》して分れぬ。
 わが寢室に入りしとき、隣室なるジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]は上衣を脱ぎ襦袢《じゆばん》一つとなりて進み來り、いとさかしげに
前へ 次へ
全674ページ中470ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
アンデルセン ハンス・クリスチャン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング