ネりと、われは假聲《つくりごゑ》して答へたり。室内《へやぬち》の燈消ゆると共に、ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]は窓より跳り出で、いち足出して逃げて行く。其外套は風に翻《ひるがへ》れり。ニコオロ[#「ニコオロ」に傍線]よ、いかにしておん身は歸りし、これも聖母の御惠《みめぐみ》にこそといひつゝ、女は窓に走り寄りぬ。その聲は猶|慄《わなゝ》けり。われは吃《ども》りて、恕《ゆる》し給へ君と叫びぬ。あなやと呼ぶ女の聲と共に、扉ははたと鎖され、われは茫然として獨り窓外に立てり。
 暫しありて、我は新婦《にひよめ》の靜かに歩ゆみ、戸を開き、戸を閉ぢ、鑰《ぢやう》を下す響を聞き、今は心安しとおもひて、そと歸途に就きぬ。われは心中に無量の喜を覺えたり。かくてこそわれは晝間の接吻に報い得つるなれ。若し彼女主人にして豫《あらかじ》め守護の功を測り知りたらんには、渠《かれ》は猶一たび接吻することをも辭せざりしなるべし。
 僧堂に歸りしは恰も晩餐の時なり。人々は我が外に出でしを知らざるさまなり。食卓に就きて程經ぬるに、ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]のみ來ざりければ、フランチエスカ[#「フランチエスカ
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