ハ。
酒店は只だ一室ありて、大いなる竈《かまど》殆どその全幅を占めたり。惜しげもなく投げ入れたる薪は盛に燃えあがりて、烟は岫《しう》を出づる雲の如く、騰《のぼ》りて黒みたる仰塵《てんじやう》に至り、更に又出口を求めて室内をさまよへり。主人の蔭多き大柳樹の下にありて、誂《あつら》へし朝餉《あさげ》の支度する間に、我等はこの烟煤《えんばい》の窟を※[#「二点しんにょう+官」、第3水準1−92−56]《のが》れ、古祠《ふるほこら》を見に往くことゝしたり。委它《いだ》たる細徑は荊榛《けいしん》の間に通ぜり。公子とジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]とは手を組み合せて、フランチエスカ[#「フランチエスカ」に傍線]はこれに腰掛けつゝ舁《か》かれ行く。
漫歩《そゞろありき》には似つかはしからぬ恐ろしき道かな、と夫人笑みつゝ云へば、案内者の一人、さのたまへど三とせの前迄は此道全く棘《いばら》に塞がれたりき、又己れが幼き頃|社《やしろ》の圓柱のめぐりに、砂土|堆《うづたか》く積もり居しを記《おぼ》え居り候ふと答ふ。案内者は皆この詞の誤らざるを證せり。一行の後には、さきの乞丐《かたゐ》の群猶隨ひ來り、
前へ
次へ
全674ページ中442ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
アンデルセン ハンス・クリスチャン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング