|28]せるが、額の上に垂れ掛れり。われその容《かたち》を窺ふに、羞慙《しうざん》あり、慧巧《けいかう》あり。而して別に一種言ふべからざる憂愁の色を帶びたる如くなりき。唯だその雙眸は恆に地上に注ぎて、人の面を見んことを恐るゝものゝ如し。
口々に物乞ふ中に、この少女のみは一言をだに發せざりき。ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]先づ進み寄りてこれに錢を與へ、手を頤《おとがひ》の下に掛けて、此群には惜しき佳《よ》き兒ぞといふ。公子夫婦もまことに然《さ》なりといひぬ。われは少女の面の紅を潮するをみたり。少女は目を開けり。而してわれ始てその瞽《めしひ》なるを知りぬ。
われは同じくこれに物を贈らんと欲して敢てせざりき。既にして人々は乞丐《かたゐ》の群に窘《くるし》められて、酒店の軒に避けたれば、獨り立ち戻りて、盾銀《たてぎん》一つ握らせたり。盲人の敏《さと》き習として、少女はその常の錢ならぬを知りたるなるべし、顏は燃ゆる如くなりて、その健《すこや》かに美しき唇は我手背に觸れたり。われはその接吻の渾身《こんしん》の血に浸《し》み渡る心地して、遽《あわたゞ》しく我手を引き退け、酒店の軒に馳せ入り
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