緕メ讀者の空想に委《ゆだ》ぬ。是に於いてや、我が説く所の唯一の全景は、人々の心鏡に映じて千樣萬態窮極することなし。且《かつ》人をして面貌《おもばせ》を語らしめて聽け。目は此の如し、鼻は此の如しと云はんも、到底これに縁《よ》りて其眞相を想像するに由なからん。唯《た》だ君の識る所の某に似たりと云ふに至りて、僅にこれを彷彿すべきのみ。山水を談ずるも亦復|是《かく》の如し。人ありて我にヘスペリア[#「ヘスペリア」に二重傍線]の好景を歌へと曰《い》はゞ、我は此遊の見る所を以てこれに應《こた》ふるならん。而して聽者のその空想の力を殫《つく》して自ら描出する所のものは、竟《つひ》にわが目撃せし所の美に及ばざるなるべし。蓋し自然の空想圖は※[#「二点しんにょう+向」、第3水準1−92−55]《はるか》に人間の空想圖の上にあるものなればなり。
 カステラマレ[#「カステラマレ」に二重傍線]を發せしは天氣めでたき日の朝なりき。これを憶《おも》へば烟立つヱズヰオ[#「ヱズヰオ」に二重傍線]の巓《いたゞき》、露けく緑深き葡萄の蔓の木々の梢より梢へと纏ひ懸れる美しき谿間《たにま》、或は苔を被れる岩壁の上に顯《あ
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