nの湖畔に遊びし時と近ごろ拿破里《ナポリ》に來し時とのみ。こたび尋ねし勝概こそは、始めて我心を滿ち足らしめ、我をして平生夢寐《むび》する所の仙郷に居る念《おもひ》をなさしめしものなれ。凡そ外國《とつくに》の人などの此境を來り訪ふものは、これをその曾て見し所の景に比べて、或《ある》は勝《まさ》れりとし或は劣れりともするなるべし。足本國の外を踐《ふ》まざる我徒《ともがら》に至りては、只だその瑰偉《くわいゐ》珍奇なるがために魂を褫《うば》はれぬれば、今|復《ま》たその髣髴《はうふつ》をだに語ることを得ざるならん。
素《も》とわれは山水の語ることを得べきや否やを疑ふものなり。山水の全景は一齊に人目を襲ふ。而《しか》るにこれを筆舌に上《のぼ》すときは、語を累《かさ》ねて句を作《な》し、句を積みて章を作し、一の零碎の景に接するに他の零碎の景を以てす。譬《たと》へば寄木細工《よせきざいく》の如し。いかなる能辯能文の士なりとも、その描寫遺憾なきことを得ざらん。そが上に我が臚列《ろれつ》する所の許多《あまた》の小景は、われ自らこれを前後左右に排置して寄木の如くならしむるに由なし。その排置の如きは、一に
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