Rに向ふ看者《みて》の間に介《はさ》まりて、推《お》されながらも、白き石垣もて仕切りたる葡萄圃《ぶだうばたけ》の中なる徑《こみち》を登り行きぬ。衆人は先を爭ひて、熔巖の將に到らんとする部落の方へと進めり。われは數畝の葡萄圃を隔てゝ、始て熔巖を望み見たり。數間《すけん》の高さなる火の海は墻《まがき》を掩ひ屋《いへ》を覆ひて漲り來れり。難に遭へるものは號泣し、壯觀に驚ける外國人《とつくにびと》は讙呼《くわんこ》して、御者商人などは客を招き價を論ぜり。馬に跨れる人あり、車を驅れる人あり、燒酎|鬻《ひさ》ぐ露肆《ほしみせ》を圍みて喧譟《けんさう》せる農夫の群あり。凡そ此等のもの總て火光に照し出されたれば、そのさま筆舌もて描き盡すべからず。
 熔巖は同じ嚮《むき》に流れ行くものなれば、好事《かうず》のものは歩み近づきて迫り視ることを得べし。杖の尖《さき》又は貨幣などを※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]込《さしこ》みて、熔巖の凝りて着きたるを拔き出し、こを看たる記念にとて持ち行くものあり。流れ下る熱質の一部、その高きが爲めに分れて迸り落つることありて、その奇觀
前へ 次へ
全674ページ中412ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
アンデルセン ハンス・クリスチャン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング