フなし。燈の光は低き戸の隙間洩りたり。媼は我を延《ひ》きて進み入りぬ。小屋の裡《うち》は譬へば大なる蜂窩《はちのす》の如くにして、一方口より出で兼ねたる烟は、あたりの物を殘なく眞黒《まくろ》に染めたり。梁柱《うつばり》はいふもさらなり、籘の一條《ひとすぢ》だに漆《うるし》の如く光らざるものなし。間《ま》の中央に、長さ二三尺、幅これに半ばしたる甎爐《せんろ》あり。炊《かし》ぐも煖むるも、皆こゝに火焚きてなすなるべし。炭と灰とはあたりに散りぼひたり。奧に孔ありて小き間につゞきたるが、そのさま芋塊に小芋の附きたる如し。その中には女子一人|臥《こや》して、二三人の小兒はそのめぐりに横《よこたは》れり。隅の方に立てる驢《うさぎうま》は、頭を延べて客を見たり。主人なるべし、腰に山羊《やぎ》の皮を卷き、上半身は殆ど赤條々《あかはだか》なる老夫は、起ちて媼の手に接吻し、一語を交へずして羊の皮をはふり、驢を門口に率《ひ》き出し、手まねして我に騎《の》れと教へぬ。媼は我に向ひて、カムパニア[#「カムパニア」に二重傍線]の馬に勝《まさ》るべき足どりの駒なり、幸運の門出は今ぞとさゝやきぬ。われはその志の嬉しけ
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