tは遙なるに、禿げたる巖の面《おもて》には麪包《パン》の木生ふることなし。腹よく拵へよといふ。若者のかひ/″\しく立ち働きて、忙しげに供ふる饌《ぜん》に、われは言はるゝ儘に飢を凌《しの》ぎつ。媼は古き外套を肩に被き、手を把《と》りて暗き廊道《わたどのみち》を引き出でつゝ云ふやう。我雛鷲よ。疆《さかひ》守《も》る兵《つはもの》も汝が翼を遮ることあるまじきぞ。その一裹は尊き神符にて、また打出の小槌なり。おのが寶を掘り出さんまで、事|闕《か》くことはあらじ。黄金も出づべし、白銀《しろかね》も出づべしといふ。媼は痩せたる臂《ひぢ》さし伸べて、洞門を掩《おほ》へる蔦蘿《つたかづら》の帳《とばり》の如くなるを推し開くに、外面《とのも》は暗夜なりき。濕りたる濃き霧は四方の山岳を繞《めぐ》れり。媼の道なき處を疾《と》く奔《はし》るに、われはその外套の端を握りて、やう/\隨ひ行きぬ。木立草むらを左右に看過して、媼は魔神の如くわれを導き去りぬ。
 數時の後挾き山の峽《かひ》に出でぬ。こゝに伊太利《イタリア》の澤池にめづらしからぬ藁小屋一つあり。籘《とう》に藁まぜて、棟より地まで葺《ふ》き下せり。壁といふも
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