Aネミ[#「ネミ」に二重傍線]湖畔に花束作りし時、わが上を占ひしことあるは此媼なりしなるべし。我運命の此媼の手中にありと見ゆること、今更にあやしくこそ覺えらるれ。媼はわれに往拿破里と書かしめき。こは固《もと》より我が願ふところなり。されど封傳《てがた》なくして、いかにして拿破里には往かるべきぞ。又|縱令《よしや》かしこに往き着かんも、識る人とては一人だに無き身の、誰に頼りてか活《なりはひ》をなさん。前にはわれ一たび即興詩もて世を渡らんとおもひき。されど羅馬にて人を傷けたりと知られんことおそろしければ、舞臺に出づべきこゝろもなし。されど方言をばよく知りたり、聖母のわれを見放ち給ふことだにあらずば、ともかくもして身を立てんと、強ひて安堵の念を起しつ。あはれ、あやしきものは人のこゝろにもあるかな。この時アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]が我を卻《しりぞ》けて人に從ひし悲痛は、却りて我心を抑し鎭むる媒《なかだち》となりぬ。我がこの時の心を物に譬へて言はゞ、商人のおのが舟の沈みし後、身一つを三版《はぶね》に助け載せられて、知らぬ島根に漕ぎゆかるゝが如しといふべき歟《か》。
 かくて一日二日
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