vりて下りぬ。われは姫の供《とも》したる人の男ならざりし嬉しさに、幸あらん夜をこそ祈れと聲高く呼びて去らんとせしに、姫進み寄りて、惡しき人かな、早くフイレンチエ[#「フイレンチエ」に二重傍線]に遁《のが》れ行かばやといひつゝも、手さし出せるを握るに、かなたも親く握り返しつ。嬉しさに嬉しさの重なりたる我は、火持たぬ手うち振りて、火持たぬ人は死ねと叫び行きぬ。我心の中には姫が徳を頌する念滿ちたり。その車の傍なる座をば、樂長にも許さず、吾友にも許さで、彼媼を伴ひしこそ、姫が心の清き證《あかし》なれ。彼媼は又かゝる遊を喜ぶべき人とも見えぬに、男寢衣を身に着けて供せしを思へば、壹《もは》ら姫を悦ばせんがために心を竭《つく》せるものなるべし。唯だ姫が側なる人をベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]ならんと疑ひしとき、我心の噪《さわ》がしかりしは、妬《ねたみ》なるか否《あら》ざるか、そはわが考へ定めざるところなりき。
われは殘れる謝肉祭の時間を面白く過さんとて、假粧舞《フエスチノ》の場《には》に入りぬ。堂の内には處狹《ところせま》きまで燈燭を懸け列ねたり。假粧《けはひ》せる土地《ところ》の人、素
前へ
次へ
全674ページ中232ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
アンデルセン ハンス・クリスチャン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング