ノ讚めらるゝこと我右に出でき。今聞くところは其聲なり。今見るところ或は其人にはあらずや。
 エネエアス[#「エネエアス」に傍線]は無情なる語を出せり。我は去りなん。我は嘗ておん身を娶《めと》りしことなし。誰かおん身が婚儀の松明《まつ》を見しものぞ。この詞を聞きたるときの心をば、ヂド[#「ヂド」に傍線]いかに巧にその眉目の間に畫き出しゝ。事の意外に出でたる驚、ことばに現すべからざる痛、負心《ふしん》の人に對する忿《いかり》、皆明かに觀る人の心に印せられき。ヂド[#「ヂド」に傍線]は今|主《おも》なる單吟《アリア》に入りぬ。譬へば千尋《ちひろ》の海底に波起りて、倒《さかしま》に雲霄《うんせう》を干《をか》さんとする如し。我筆いかでか此聲を畫くに足らん。あはれ此聲、人の胸より出づとは思はれず。姑《しばら》く形あるものに喩《たと》へて言はんか。大いなる鵠《くゞひ》の、皎潔《けうけつ》雪の如くなるが、上りては雲を裂いて※[#「さんずい+景+頁」、第3水準1−87−32]氣《かうき》たゞよふわたりに入り、下りては波を破りて蛟龍《かうりよう》の居るところに沒し、その性命は聲に化して身を出で去らんとす
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