フ聲は神に謝する祈祷の歌となり、この歌又變じて歡呼となる。忽ち柔なる笛の音起れり。是れヂド[#「ヂド」に傍線]が戀の始なるべし。戀といふものは我が未だ知らざるところなれど、この笛の音は、我に髣髴《はうふつ》としてその面影を認めしめたり。忽ち角聲|獵《かり》を報ず。暴風又起れり。樂聲は我を引いて怪しき巖室《いはむろ》の中に入りぬ。是れ温柔郷なり。一呼一吸戀にあらざることなし。忽ち裂帛《れつぱく》の聲あり。幕は開きたり。
エネエアス[#「エネエアス」に傍線]は去らんとす。去りてアスカニウス[#「アスカニウス」に傍線](エネエアスの子)がために、ヘスペリヤ[#「ヘスペリヤ」に二重傍線](晩國の義、伊太利)を略せんとす。去りてヂド[#「ヂド」に傍線]を棄てんとす。憐むべしヂド[#「ヂド」に傍線]はおのれが榮譽と平和とを捧げて、これを無情の人におくり、その夢猶未だ醒めざるなり。エネエアス[#「エネエアス」に傍線]が歌にいはく。その夢は早晩《いつか》醒むべし。トロアス[#「トロアス」に二重傍線]の兵《つはもの》黒き蟻の群の如く獲《えもの》を載せて岸に達せば、その夢いかでか醒めざることを得ん。
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