地の底を見おろすやうに覺えて、ここにも怪しき境ありとおもひき。かゝるとき、母上は杖の尖《さき》にて窓硝子を淨め、なんぢ井に墜ちて溺れだにせずば、この窓に當りたる木々の枝には、汝が食ふべき果《このみ》おほく熟すべしとのたまひき。
隧道、ちご
我家に宿りたる畫工は、廓外に出づるをり、我を伴ひゆくことありき。畫を作る間は、われかれを妨ぐることなかりき。さて作り畢《をは》りたるとき、われ穉《をさな》き物語して慰むるに、かれも今はわが國の詞を解《げ》して、面白がりたり。われは既に一たび畫工に隨ひて、「クリア、ホスチリア」にゆき、昔游戲の日まで猛獸を押し込めおきて、つねに無辜《むこ》の俘囚を獅子、「イヱナ」獸なんどの餌としたりと聞く、かの暗き洞の深き處まで入りしことあり。洞の裡《うち》なる暗き道に、我等を導きてくゞり入り、燃ゆる松火《たいまつ》を、絶えず石壁に振り當てたる僧、深き池の水の、鏡の如く明《あきらか》にて、目の前には何もなきやうなれば、その足もとまで湛へ寄せたるを知らむには、松火もて觸れ探らではかなはざるほどなる、いづれもわが空想を激したりき。われは怖をば懷かざりき。そは危し
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