nなつかしく、我詞の猶|穩《おだやか》ならざるところありしを悔みぬ。一日散歩のついで、吾友の上をおもひつゝ、かの猶太廓《ゲツトオ》に入りぬ。若し期せずして其人に逢はゞ、我友の怒を霽《はら》す便《たより》にもならんとおもひき。されど我は彼翁をだに見ざりき。門《かど》よりも窓よりも、知らぬ人面を出せり。街の兩側なる敷石の上には、例の古衣、古かねなど陳《の》べたるその間には見苦き子供遊べり。物買はずや、物賣らずやと呼ぶ聲は、我を聾《みゝしひ》にせんとする如し。少女あり。向ひの家なる友と、窓より窓へ毬《まり》投げつゝ戲れ居たり。そが一人は頗《すこぶる》美しと覺えき。吾友の戀人はもしこれにはあらずや。我は圖らず帽を脱したり。嗚呼、おろかなる振舞せしことよ。我は人の思はん程も影護《うしろめた》くて、手もて額を拭ひつ。こは帽を脱したるは、少女のためならで、暑に堪へねばぞと、見る人におもはしめんとてなりき。
 一とせの月日は事なくして過ぎぬ。稀にベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]に逢ふことありても、交情昔のごとくならず。我はそのやさしき假面の背後に、人に※[#「りっしんべん+敖」、第4水準2−1
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