ノ向はんとせしとき、忽ち羽つきたる※[#「(矛+攵)/金」、第3水準1−93−30]《かぶと》を戴き、長靴の拍車を鳴して、輕らかに廊を歩みゆく人あり。追ひ近づきて見ればベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]なり。友の喜は我喜に讓らざりき。語るべき事多ければ、共に來よと云ひつゝ、友は我を延《ひ》きて奧の方へ行きぬ。
汝はわが別後いかなる苦を嘗めしかを知らざるべし。又その苦の今も猶止むときなきを知らぬなるべし。譬へば我は病める人の如し。そを救ふべき醫は汝のみ。汝が採らん藥草の力こそは、我が唯一の頼なれ。斯くさゝやきつゝ、友は我を延いて大なる廳を過ぎ、そこを護れる禁軍《このゑ》の瑞西《スイス》兵の前を歩みて、當直士官の室に入りぬ。君は病めりと云へど、面は紅に目は輝けるこそ訝《いぶか》しけれ。さなり。我身は頭の頂より足の尖まで燃ゆるやうなり。我はそれにつきて汝が智惠を借らんとす。先づそこに坐せよ。別れてより後の事を語り聞すべし。
汝はかの猶太の翁の事を記《おぼ》えたりや。聖母の龕《がん》の前にて、惡少年に窘《くるし》められし翁の事なり。我はかの惡少年を懲《こら》して後、翁猶在らば、家まで
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