めき。こは、をぢの本性をも見るに足りぬべき事なりき。例の石級の下に老いたる盲《めくら》の乞兒《かたゐ》ありて、往きかふ人の「バヨツコ」(我二錢|許《ばかり》に當る銅貨)一つ投げ入れむを願ひて、薄葉鐵《トルヲ》の小筒をさら/\と鳴らし居たり。我がをぢは、面にやさしげなる色を見せて、帽を揮《ふ》り動しなどすれど、人々その前をばいたづらに過ぎゆきて、かの盲人の何の會釋もせざるに、錢を與へき。三人かく過ぐるまでは、をぢ傍より見居たりしが、四人めの客かの盲人に小貨幣二つ三つ與へしとき、をぢは毒蛇の身をひねりて行く如く、石級を下りて、盲の乞兒の面を打ちしに、盲の乞兒は錢をも杖をも取りおとしつ。ペツポ[#「ペツポ」に傍線]の叫びけるやう。うぬは盜人なり。我錢を竊《ぬす》む奴《やつ》なり。立派に廢人《かたは》といはるべき身にもあらで、たゞ目の見えぬを手柄顏に、わが口に入らむとする「パン」を奪ふこそ心得られねといひき。われはこゝまでは聞きつれど、こゝまでは見てありつれど、この時買ひに出でたる、一「フオリエツタ」(一勺)の酒をひさげて、急ぎて家にかへりぬ。
 大祭日には、母につきてをぢがり祝《よろこび》に
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