やしく動かされぬ。かの異國人は地獄に墜《お》ちて永く浮ぶ瀬あらざるべきかと母上問ひ給ひぬ。そはひとりかの男の上のみにはあらじ。異國人のうちにはかの男の如く惡しき事をば一たびもせざるもの多し。かの輩《ともがら》は貧き人に逢ふときは物取らせて吝《をし》むことなし。かの輩は債あるときは期を愆《あやま》たず額をたがへずして拂ふなり。然《しか》のみならず、かの輩は吾邦人のうちなる多人數の作る如き罪をば作らざるやうにおもはる。母上の問はおほよそ此の如くなりき。
フラア・マルチノ[#「フラア・マルチノ」に傍線]の答へけるやう。さなり。まことにいはるゝ如き事あり。かの輩のうちには善き人少からず。されどおん身は何故に然るかを知り給ふか。見給へ。世中をめぐりありく惡魔は、邪宗の人の所詮おのが手に落つべきを知りたるゆゑ、強ひてこれを誘はむとすることなし。このゆゑに彼輩は何の苦もなく善行をなし、罪惡をのがる。善き加特力《カトリコオ》教徒はこれと殊《こと》にて神の愛子《まなご》なり、これを陷《おとしい》れむには惡魔はさま/″\の手立を用ゐざること能はず。惡魔はわれ等を誘ふなり。われ等は弱きものなればその手の中
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