Nすに外ならざるべし。彼アンジエロ[#「アンジエロ」に傍線]の獲つる金は、むかし人の魔穴を怖れて、敢て近づくことなかりし時、海賊の匿《かく》しおきつるものなるべし。
 巖穴の一點の光明は忽ち失せて、第二の舟は窟内に入り來りぬ。そのさま水底より浮び出づるが如くなりき。第三、第四の舟は相繼いで至りぬ。凡そこゝに集へる人々は、その奉ずる所の教の新舊を問はず、一人として此自然の奇觀に逢ひて、天にいます神父の功徳《くどく》を稱へざるものなし。
 舟人は俄に潮滿ち來《く》と叫びて、忙はしく艪《ろ》を搖《うご》かし始めつ。そは滿潮の巖穴を塞ぐを恐れてなりき。遊人の舟は相|銜《ふく》みて洞窟より出で、我等は前に渺茫《べうばう》たる大海を望み、後《しりへ》に琅※[#「王+干」、第3水準1−87−83]洞《らうかんどう》の石門の漸く細《ほそ》りゆくを見たり。
[#地から1字上げ](明治二十五年十一月―三十四年二月)



底本:「定本限定版 現代日本文學全集 13 森鴎外集(二)」筑摩書房
   1967(昭和42)年11月20日発行
入力:三州生桑
校正:松永正敏
2005年8月25日作成
2008年9月17日修正
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