T線]を去らんと欲する心を生じて、そを告げんために、市長《ボデスタ》の家をおとづれたり。
 月光始めて渠水《きよすゐ》に落つるころほひ、我は二女と市長の家の廣間なる、水に枕《のぞ》める出窓ある處に坐し居たり。マリア[#「マリア」に傍線]はすでに一たび燈火《ともしび》を呼びしかど、ロオザ[#「ロオザ」に傍線]がこの月の明《あか》きにといふまゝに、主客三人は猶月光の中に相對せり。マリア[#「マリア」に傍線]はロオザ[#「ロオザ」に傍線]に促されて、穴居洞の歌を歌ひぬ。聲と情との調和好き此一曲は、清く軟かなる少女《をとめ》の喉《のど》に上りて、聞くものをして積水千丈の底なる美の窟宅を想見せしむ。ロオザ[#「ロオザ」に傍線]。この曲には音節より外、別に一種の玲瓏たる精神ありとはおぼさずや。われ。洵《まこと》に宣給《のたま》ふごとし。若し精神といふもの形體を離れて現ぜば、應《まさ》に此詩の如くなるべし。マリア[#「マリア」に傍線]。生れながらに目しひなる子の世界の美を想ふも亦是の如し。ロオザ[#「ロオザ」に傍線]。さらば目|開《あ》きての後に、實世界に對せば、初の空想の非なることを知るならん。マリア[#「マリア」に傍線]。實世界は空想の如く美ならず。されど又空想より美なるものなきにあらず。話頭は直ちにマリア[#「マリア」に傍線]が初め盲目なりし事に入りぬ。こはポツジヨ[#「ポツジヨ」に傍線]が早く我に語りしところなれども、今はわれ二女の口より此物語を聞きつ。ロオザ[#「ロオザ」に傍線]は弟の手術を讚め、マリア[#「マリア」に傍線]も亦その恩惠を稱《たゝ》へたり。マリア[#「マリア」に傍線]の云ふやう。目しひなりし時の心の取像《しゆざう》ばかり奇《く》しきは莫《な》し。先づ身におぼゆるは日の暖さ、手に觸るゝは神社の圓柱《まろばしら》の大いなる、霸王樹《サボテン》の葉の闊《ひろ》き、耳に聞くはさま/″\の人の馨音《こわね》などなり。一の官能の闕《か》くるものは、その有るところの官能もて無きところのものを補ふ。人の天青し、海青し、菫《すみれ》の花青しといふを聽きて、われは董の花の香を聞き、そのめでたさを推し擴めて、天のめでたかるべきをも海のめでたかるべきをも思ひ遣りぬ。視根の光明闇きときは、意根の光明却りて明なるものにやといふ。これを聞く我は、ララ[#「ララ」に傍線]が髮に※[#「
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