舊羈※[#「革+勺」、第3水準1−93−76]《きうきてき》
アントニオ[#「アントニオ」に傍線]ならずやと呼ぶ聲あり。我に迫りて手を※[#「てへん+參」、97−下段−3]《と》れり。初はわれベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]の己れを認め得たるならんとおもひしが、その面を視るに及びて、そのフアビアニ[#「フアビアニ」に傍線]公子なるを知りぬ。公子はわが昔の恩人の壻《むこ》にして、フランチエスカ[#「フランチエスカ」に傍線]の君の夫なり。我を以て不義の人となし、我に訣絶《けつぜつ》の書を贈れる人の族《うから》なり。公子。こゝにて逢はんとは思ひ掛けざりき。夫人に語らば定めて喜ぶことならん。されどいかなれば夙《はや》く我們《われら》を訪《たづ》ねんとはせざりし。カステラマレ[#「カステラマレ」に二重傍線]に來てより既に八日になりぬ。われ。君達のこゝに在《いま》すべしとは、毫《すこ》しも思ひ掛けざりき。そが上わが伺候を許し給はんや否やだに知らねば。公子。現《げ》にさることありき。おん身は昔にかはる男となりて、婦人のために人と決鬪し、脱走したりとの事なりき。そは我とても好しとは思はず。をぢ君のことば短なる物語にて、その概略《あらまし》を知りし時は、我等もいたく驚きたり。おん身はをぢ君の書を獲たるならん。その書は優しき書にはあらざりしならんといふ。我はこれを聞きつゝも、むかしの羈※[#「革+勺」、第3水準1−93−76]《きづな》の再び我身に纏《まつは》るゝを覺えて、只だ恩人に見放されたる不幸なる身の上を侘《かこ》ちぬ。公子は我を慰めがほに、又詞を繼いで云ふやう。否々、おん身を見放さんはをぢ君の志にあらず。我車に上りて共に來よ。今宵は妻のために思掛《おもひがけ》なき客を伴ひ還らんとす。カステラマレ[#「カステラマレ」に二重傍線]は遠くもあらず。旅宿は狹けれど、猶おん身が憩はん程の房《へや》はあるべし。をぢ君の性急なるはおん身も兼ねて知れるならずや。この和睦《わぼく》をばわれ誓ひて成し遂ぐべしといふ。我は首を垂れてこの成《たひら》ぎの覺束《おぼつか》なかるべきを告げしに、公子は無造作に我詞を打消して、我を延《ひ》きて車の方に往きぬ。
車に乘りてより、公子は我に別後の事を語れと迫りぬ。わが賊寨《ぞくさい》に入りしことを語るに及びて、公子は面に笑を帶びて、そは即
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