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友と廊に出でゝ望むに、その景色の好きこと、想像の能く及ぶ所にあらず。脚の下には柑子《かうじ》、檸檬《リモネ》などの果樹の林あり。黄金いろしたる實の重きがために、枝は殆ど地に低《た》れんとす。丈高き針葉樹の園を限りたるさまは、北伊太利の柳と相似たり。この木立の極めて黒きは、これに接したる末遙なる海原《うなばら》の極めて明《あか》ければなり。園の一邊《かたほとり》の石垣の方を見れば、寄せ來る波は古の神祠|温泉《いでゆ》の址《あと》を打てり。白帆懸けたる大舟小舟は、徐《しづ》かに高き家の軒を並べたるガエタ[#「ガエタ」に二重傍線]の灣《いりえ》に進み入る。(原註。ガエタ[#「ガエタ」に二重傍線]はカエタ[#「カエタ」に傍線]より出でたる名なりといふ。是れヰルギリウス[#「ヰルギリウス」に傍線]が詩の主人公エネエアス[#「エネエアス」に傍線]が乳媼《めのと》の名にして、此港を以て其埋骨の地となせるなり。)灣《いりえ》の背後《うしろ》に一山の聳ゆるありて、その嶺には古壘壁を見る。友は左の方を指してヱズヰオ[#「ヱズヰオ」に二重傍線]の烟を見よといふ。眸を轉じて望めば、火山の輪廓は一抹の輕雲の如く、美しき青海原の上に現れたり。われは小兒の情もて此景物を迎へ、心の裡《うち》に名状すべからざる喜を覺えき。
われ等は相携へて果園に下りぬ。われは枝上の果《このみ》に接吻して、又地に墜ちたるを拾ひ、毬《まり》の如くに玩《もてあそ》びたり。友の云ふやう。げに伊太利はめでたき國なる哉。北方の故郷に在りし間、常に我|懷《おもひ》に往來《ゆきき》せしものはこの景なり、この情なり。嘗て夢裡に呑みつる霞は、今うつゝに吸ふ霞なり。故郷の牧を望みては、此|橄欖《オリワ》の林を思ひ、故郷の林檎を見ては、此|柑子《かうじ》を思ひき。されど北海の緑なる波は、終に地中海の水の藍碧なるに似ず、北國の低き空は、終に伊太利の天《そら》の光彩あるに似ざりき。汝はわが伊太利を戀ひし情のいかに切なりしかを知るか。一たび淨土を去りたるものゝ不幸は、嘗て淨土を見ざりしものゝ不幸より甚し。我故郷なる※[#「王+連」、第3水準1−88−24]馬《デンマルク》は美ならざるに非ず。山毛欅《ぶな》の林の鬱として空を限るあり。東海の水の闊《ひろ》くして天に連《つらな》るあり。されど是れ皆|猶《なほ》人界の美のみ。伊太利は天國なり、
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