子の胸をぐさりとやれば、そのあたたかい血が足にかかって、それがひとつになって、おさかなの尾になるの。するち、あんたはまたもとの人魚のむすめになって、海のそこのあたしたちの所にかえれて、このまま死んで塩からい海のあわになるかわりに、このさき三百年生きられるでしょう。さあ、はやくしてね。王子が死ぬかあんたが死ぬか、お日さまののぼるまでに、どちらかにきめなくてはならないのよ。おばあさまは、あまりおなげきになったので、白いお髪《ぐし》がぬけおちておしまいになったわ。あたしたちの髪の毛が魔女のはさみで切りとられてしまったようにね。王子をころして、かえっておいでなさい。早くしてね。ほらもう、あのとおり空に赤みがさして来たわ。もうすぐ、お日さまがおあがりになるわ。すると、いやでも死ななくてはならないのよ。」
 こういって、おねえさまたちは、いかにもせつなそうにため息をつくと、波のなかにすがたをかくしました。
 人魚のひいさまは、天幕《てんまく》にたれたむらさきのとばりをあけました。うつくしい花よめは、王子の胸にあたまをのせて、休んでいました。ひいさまは、腰をかがめて、王子のうつくしいひたいに、そっと
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