からね。そのうち、どうしてもおよめえらびをしなければならなくなったら、ぼくはいっそおまえをえらぶよ。口はきけないかわり、ものをいう目をもっている、ひろいむすめのおまえをね。」
 こういって、王子は、ひいさまのあかいくちびるにくちをつけました。それからながい髪の毛をいじって、その胸に顔をおしつけました。それだけでもうひいさまのこころには、人間にうまれた幸福と、死なないたましいのことが、夢のようにうかびました。
「でも、おしのひろいむすめさんは、海をこわがりはしないだろうね。」と、王子はいいました。そのとき、ふたりは、おとなりの王さまの国へ行くはずのりっぱな船の上にいました。それから王子に、海のしけ[#「しけ」に傍点]となぎ[#「なぎ」に傍点]のこと、海のそこのふしぎな魚のこと、そこで潜水夫《せんすいふ》のみて来ていることなどを、なにくれと話しました。でも、話のなかで、ひいさまはついほほえみかけました。そうでしょう、海のそこのことなら、たれがなんといったって、このひいさまにかなうものはないでしょうから。
 月のいい晩で、舵《かじ》の所に立っている舵とりひとりのこして、船のなかの人たちはみん
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