、じっと殺《ころ》されるのを待《ま》ち構《かま》えました。
 が、その時《とき》、鳥《とり》が自分《じぶん》のすぐ下《した》に澄《す》んでいる水《みず》の中《なか》に見《み》つけたものは何《なん》でしたろう。それこそ自分《じぶん》の姿《すがた》ではありませんか[#「ありませんか」は底本では「ありませんが」]。けれどもそれがどうでしょう、もう決《けっ》して[#「決して」は底本では「決しで」]今《いま》はあのくすぶった灰色《はいいろ》の、見《み》るのも厭《いや》になる様《よう》な前《まえ》の姿《すがた》ではないのです。いかにも上品《じょうひん》で美《うつく》しい白鳥《はくちょう》なのです。百姓家《ひゃくしょうや》の[#「百姓家の」は底本では「百性家の」]裏庭《にわ》で、家鴨《あひる》の巣《す》の中《なか》に生《うま》れようとも、それが白鳥《はくちょう》の卵《たまご》から孵《かえ》る以上《いじょう》、鳥《とり》の生《うま》れつきには何《なん》のかかわりもないのでした。で、その白鳥《はくちょう》は、今《いま》となってみると、今《いま》まで悲《かな》しみや苦《くる》しみにさんざん出遭《であ》った
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