ひら》いてくれたが、やつととてつもない叫びをあげた。
「――や、これはどないしたこつちやろ、大凶と出たわ、へえ、……」
 と、呆れかへつて、私の顔を打守つてゐたが、
「――あほらしい、こんなことあるはずない、をかしい、ほんまにをかしすぎる」
 さもあり得べからざる変事が起つたのに、胆をつぶして了つた形であつた。うしろに両手をついて、
「――うちのおみくじはやな、これでも相当花柳界や株屋はんにもお得意があるさかいに、凶と云ふのは、絶対に入れてないのや、そやのに、……そやのに、何と云ふことや、凶も凶、しかも、大凶やないか」
 まだ信じられないのか、彼は幾度もおみくじを見直してゐた。
「――ああ、やつぱり大凶、ちがひない、……入れといた覚えのないもんが出るとは、こら、お稲荷さんの罰やで、……」
 昂奮して独りで云ひつづけてゐたおみくじ屋は、遂に説明のつかない不思議を解きかねて、その彼流に不安なもどかしさを私に対する怒りに代へるのであつた。
「――この罰当りめ、この罰当りめ、こら、大凶云ふのは来年だけのことやあらへん、お前の一生が大凶やがな、……うちのおみくじにけちをつけやがつて!」
 まだ除
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