場茶屋みたい」にした、つまり店の小粋な設備も座敷を取り払ひ、一切腰かけにしたし、値段書きもはつきりと出し、雑駁《ざつぱく》な趣味のないものになつて了つたからである。お父つあんのやりやうはあくまでも旧式で、生きのいい本場ものを、それだけ高く食はせ、酒も樽やレッテルを信用せず、いちいち口喧《くちやかま》しく吟味し、自分でききざけしてから出すといつた風であつた、気にいらないqは突慳貪《つつけんどん》に追ひ立てを食はせ、買ひ出しに行つても思ふやうなねたが手に入らないと、本日売切の札を出したり、少くとも酒だけの客を取り、板場の自分はさつさと休んで金車亭の昼席へ寝ころびに行つて了ふのだ、死んで豊太郎の代になつてからも、さうした気風が残つてゐて、収支つぐなはないまでに到つたとも云へた、そんな莫迦《ばか》な商売下手はないと、おつねの父親は金を投げ出すとともに、今どきの客にそんなものを食はせたつて猫に小判みたいなもんだ、安くて見てくれさへよけれや、場ちがひもので結構、酒だつて宣伝のよくきいてゐるものなら中実《なかみ》のことなんかどうだつてかまやしない、と放言して、品川と同じ品を納れるやうになつた、彼の野
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