してはゐられない。折角だが、失敬するぜ。」
暫くして兵野が、そんなことを呟きながら、むくむくと立ちあがらうとすると、
「さうですか、それあ残念だなあ……」
堀田は、深い吐息といつしよに心底から名残り惜しさうに呟くのであつた。――「ぢや、また明日の晩、都合がついたらお君ちやんの家に来て呉れませんか、私は雨だらうが嵐だらうが屹度行つてゐますから……」
「えゝ、行きませう、屹度行きます。」
兵野は、堀田の涯しもない純情味に心からの魅力を感じさせられて、はつきりとさう云ふと勇ましく握手を求めた。
「あゝ、さうですか、必ず、ぢや待つてゐますよ。あゝ、私はもう、明日貴方に会ふことが出来なかつたら、死んでしまふかも知れませんよ。」
余程堀田も酔つた紛れの亢奮に駆られ過ぎてゐたとは云ふものゝ、さう云つてしつかりと兵野の手を握つた時、不図兵野がその眼に気づくと、涙が止め度もなくハラハラと流れてゐるではないか!
二
外まで出れば車があるだらうから、決してそんな心配をしないで呉れ――と再三兵野が辞退するにも関はらず、堀田は、しやにむに送らせて欲しい――と主張して諾かなかつた。
「それ
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