にあらゆる驚嘆詞を絶叫しながら、身を忘れて、一様に天空を指差して――誰も彼も足許などに気を配る余裕はない、空の一点以外に視線を放す者はない、亢奮の絶頂に置かれた彼等は、夢中になつて駈けつては、ピヨンと跳ねあがつて無駄に虚空を握む、今にもつかまへて見せるといふ必死の意気が露骨に彼等の五体にみなぎつてゐるのだ、彼等一同は一片の食物の影を見誤つて満腔の憧憬を寄せた動物のやうに、理性を没却し常識に追放され、ひたすらに無知なる性急に逆上して、思はず跳ねあがつては空を握んだ、駈けては又飛びあがつて空しく拳固を拵える、全くの無駄事を繰り返しながら息の切れも知らずに駈けて来た。三間駈けたかと思ふと三尺飛びあがる、果物をもぎとらうとでもするやうに素早く身構えては、軽やかに跳躍する……さういふ動作を間断なく続けながら、不思議とすみやかな速力で駈けてゐる。彼等は見ずにハードルを巧みに飛び越え、――一途に天を凝視した阿修羅になつて駈けてゐる。
稍おくれて続く者共は、手に手に竹の長竿を打ち振りながら、同じく身を忘れ、奇妙な眺躍をし続けて一散に駈けて来た。
私達だつて息をつく間もなかつた。どんな言葉を放つ間も
前へ
次へ
全44ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング