ことを得々として彼に物語つたが、彼は今だにそれは法螺だと思つてゐる。
「なにしろ地つゞきぢやアなア!」
 祖父が斯んな溜息を洩したのを、彼は覚えてゐる。
「だつて安政の地震は関東だけだつたんでせう?」
「ともかく電報を打たう……毛唐人の国のことは解らないからな!」
 祖父と同じやうに彼は、写真でしか見知らない父の安否を気遣つた。
 近火見舞の手紙を受け取つた日に彼は、そんな古いことを一寸思ひ出したり、その手紙を書く前の母と弟の会話などを想像したりした。
 タキノは、何処に住んでも、生れ故郷であつても、己れの現住所を賞めないのが癖だつたが、こんどの所は今迄住んだ何処よりも嫌ひだ、と云つた。こゝに移つた第一日に湯に行つた時に、あたりを眺め、野原に点在する不思議な家屋を眺め、一体あゝいふ家には何んな人々が、何んな風に住んでゐるのか? などゝ訝しがつたのである。西洋人のやうに腕を取り合つて恥づる気色もなく歩いて行く、それでもう相当の年輩の一組の男女が居た。また西洋風の建築を、如何したら最も手軽に、そして見かけだけは飽くまでも高踏的に……などゝ熱心に研究しながら歩いて行く、丁度彼位ゐの年輩の二人
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