つて訊いて見た。
「中学の時分なんだ、我々は仮装隊を組織して……」
「あゝ、もう沢山/\。」
何といふつまらない男だらう――彼女は、沁々とさう思つた。
「おゝ魂よ、Make merry and Carouse, Dear soul, for all is well! ……」(テニソン)
もう駄目なのか! と彼女は、思つた。目方が軽いから運般も出来るんだが、これでも正体なくなると相当重い、毎晩あれが一仕事だ! と、彼女は思つた。それにしても稍ともすれば怪し気な英語などを叫ぶが、みつともない話だ、あした注意してやらう――などゝ思ひながら、もう斯うなつては逆へないので、「随分偉いことを御存じね、説明して下さいな。」と云つてやつた。が、幸ひだつた、彼は、うな垂れて粗野な吐息を衝いてゐるばかりだつた。(そして、タキノは……)と、彼は思つたのである。
当時彼の国の文壇には、「自己派」と称する一派があつた。それは作者自身が、自己の実生活を材にして、これを芸術化するといふところから左様な名称が出たのである。何故ならば、これはもう一つの「経験派」と違つて、同じく生活を材とするのではあるが、或る者は
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