ヂングの下にだつて、床屋がありますから一寸行つていらつしやいよ、案内してあげますわ。」
「…………」
「ぢや散歩に出かけませうか。」
「もう一度踊らう――そのうちには、うちの細君を迎へに行つた馬車が帰つて来るだらうから。」
 そして私達は再び踊りの群に投じた。
「はるかに聞える太鼓の響、新たに来れる唱歌隊――こんな歌を知つてゐる。」
「知らないわ。」
「大昔のドイツの歌だよ。」
「でも、調子好くステップに合ふぢやありませんか。」
「合さうと思つて歌へば何んな類ひの歌だつて、その場その場のステップに合ふ位ゐのことは当然ぢやないかね。――可憐な驚き方をする愛らしい人形だ、君は!」
「ぢや、もつと歌つて御覧なさいよ。今よりも、もう少し低い声で――ね。」
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「一度は美味に飽きたれど、
今は絶えて口にせず、
踊り躍りて破れ靴
これより先きは跣足だよ。」
[#ここで字下げ終わり]
「面白い歌だわね。それから?」
[#ここから2字下げ]
「沼の中より現れて、
舞踏の列につらなれば
……………… 
[#ここで字下げ終わり]
「あら、もつと小さな声で――といふのによ。」
[#ここか
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