る怪し気な理髪師の仕業なり――といふことが判明したれども、理髪師の変装とその神出鬼没の出現は人力をもつては如何に為すべき術も見あたらざりき。彼は巨大なる一葉の団扇に乗りて空中を飛行し、山を越え、海を越え、更に時代を飛び越えて、永遠にこの疫病を流行させん――と豪語せり。されど、この「剃刀を用ひずして※[#「髟/(冂<はみ出た横棒二本)」、第4水準2−93−20]を剃る術」とのみ云へば魔的に聞ゆれど、余の研究するところに依つて見ると、これは単に、液状になしたる砒石の素を塗りつけるのみの至つて原始的な手段なりき。その他に於ける彼の様々なる魔術も科学上の説明を加ゆるなれば、凡そこの類ひのカラクリには相違なからんも、大方の諸賢は先づ世の化粧術師に対しては慎重なる注意を施すべきが肝要なり。彼の魔術師の子孫、何れの町に、如何なる姿に身を窶して潜み居るやもはかり知れざればなり。
二
「一体何を見てゐらつしやるの? ――あたしの眼だけを凝つと見て……他のことなんて考へてゐては駄目ぢやありませんか……」
私に腕をとられて颯々と踊りまはつてゐる綺麗なダンサーが、踊りながら私の耳に囁いた。
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