擽つたく情けなかつた。で、ぶつきら棒に、
「だつて男か女かも解らないし――」と手前勝手な不平顔を示した。
「多分男だよ。尤も俺は両方考へてゐる。」
彼の心は、容易くほぐれた。
「嘘だア!」彼は、女が親しい友達に厭がらせでも云ふやうに、狡猾にへつらつた。
「いゝえ、此間うちからいつもそんなことを云つてゐらつしやるんですよ。」と女が傍から加勢して、一寸彼の父をテレさせた。
「何でも家ぢや長男には英の字をつけなければいけないんだつてさ。」父は、軽く慌てゝ、それでもう孫を男と決めて、ごまかさうと試みた。
「阿父さんはしきたり[#「しきたり」に傍点]が大嫌ひなんでせう。」
「此頃、少し俺もかつぎ[#「かつぎ」に傍点]家になつた。」
「第一阿父さんや僕は、長男だが英ぢやないぜ。」
「英の字をつけないと碌な者にならないんだつてさ。」さう云つて彼の父は、彼の顔を見た。――そして二人は思はず噴き出した。
「さう云つて見れば弟の方が僕より質が好ささうだね、学校なども何時も優等で――」
「さうだなア、ともかく今度は間違ひなく英の字を付けようぜ。」
「さうしようかね。」彼もその方が好ささうな気がした。「おぢ
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