だ。何をするのも厭になるといふやうな、無茶苦茶に気が鬱いで……ターミナル・ペツシミストとでも云ふのかね、柄でもないんだがね。」
「楽天的厭世家《オプテイミステイク、ペツシミスト》! そんなものがあるか知ら。」
「そんなものがあるものか!」
「止さう/\。そんな話は――」彼は、ふつと厭アな気がして、庭に眼を反向けた。
「貴様には友達はないのか。」暫くして父はそんなことを訊ねた。
「あるにはあるけれど……」彼は、さう云つたものゝ気が滅入つた。
「親類の連中なんて当にはならんよ。」
 彼には父が、どうしてそんなことを云ふのか好く解らなかつた。
「僕だつて皆な嫌ひだ。」
「嫌ひだ、で済むうちは好いが……」
「清親なんて云ふ奴は、何て厭な奴だらう。」
「貴様がそんなことを云つたつて仕様がないぢやないか――」
 そんな話から、いつか友達のことに移つて行つた。イギリス人に親しい二人の友達を持つてゐることなどを父は話したりした。
 その時分同人雑誌の会合が毎月一度宛あつて、彼は厭々ながら稀れに上京した。――どうしたハズミだつたか、父は、来て呉れるやうな友達があるんなら、一辺此方へ皆なを招待したらどうか? といふやうなことを云ひ始めた。この前彼等に会つた時、
「近いうちに一辺タキノの小田原へ行つて見やうぢやないか。」といふ話があつたことを彼は不図思ひ出したので、
「ぢや今度行つたら聞いて見やう」と父に答へた。
「皆な主に何をしてゐる人なの?」
「新聞社とか婦人雑誌社とか中学の先生とか……」
「雑誌や先生は厭だが、新聞社はいゝな。」
「皆な相当に偉いらしいですよ。」
「東京の新聞社ぢや大したものだらう、尤も俺は日本の新聞社は何処も知らないが、――ヒラデルヒヤの学校にゐた時分の友達で、ベン・ウヰルソンといふ男が今でもニユーヨーク・ヘラルドの論説記者をしてゐる、つい此間も手紙を寄した、そら、お前が子供の時分にオルゴールを送つて呉れた人だよ。」
「さうさう、Twinkle Twinkle Little Star, How I wonder what you are といふ……さうさう、今でもあるかも知れませんよ。」彼は変に細かく叙情的な声をした。
「いつかベンに手紙を書いた時、俺の倅も今では大学を卒業して、新聞記者になつてゐると云つてやつたことがあつた。それはさうとお前はいつの間にか止めちや
前へ 次へ
全27ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング