らさげた恰好は、その面白さ讚嘆に価するわい。続く赤鬼、青鬼、|一つ目小僧《キクロープス》に傘の化者……」

     下

 しきりに村長が歓呼の声をあげ続けてゐましたが、そこまで聞くと私は、インヂアンの大酋長は、思はず、
「アツ!」
 と叫んで、杖と構へてゐたアツシユの大弓を地にとり落してしまひました。先|達《だつて》の議決の時には私の親しい友達ばかり、例へば漁夫の八郎丸、馬蹄鍛冶屋の大二郎、麦畑の小作人である誰々、その他十余名で、酒屋の亭主とか、ハツピー・フリガンや、または地主の長男、或は執達吏、高利貸などの連中は、その場に居合せなかつたので、あの時の友達ばかりが現れるのかと思つてゐたのに――! これではどうも案に相違の絶体絶命だぞ――と私の脚は震へた。何故なら私は彼等に負債を負ふ身で、常々でも彼等が私を追ひ廻す姿は、鬼であり、化者であり、悪侍であるのだ。それが、ほんたうの鬼となり、化者となり、阿修羅となつて攻め寄せられては一大事だ。
「村長――私は、恥しながら今日の同行は辞退します。さよなら……」
 私はいひ終らず一目散に裏山を目がけて遁走しようと身構へた時、村長は慌てゝ私のガウ
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