馬上の春
牧野信一

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)緋縅《ひおどし》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)私達の|伊達好みの戯談好き《アストラカン》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)てれ[#「てれ」に傍点]て

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)うや/\しく
−−

     上

 私たちが、その村に住んでゐたころ――では、今年の正月は、いつものやうに朝から晩まで酒を飲んでは議論をしたり喧嘩をしたりしてゐても止め度がないから、
「今年はひとつ――」
 と、私達の|伊達好みの戯談好き《アストラカン》の村長が提言しました。「大いに趣向を変へて――馬を引け! 近郷の村々を訪れて、飲み歩かう。皆々思ひをこらして、思ひ思ひの仮装にこの身を固めて、馬上の騎士とはならう。」
「賛成だ!」
「輝やかしいぞ!」
「はや、魂が天に飛ぶ!」
 忽ち村長は斯様な花々しい賛同の叫びと宙に振られる拳の旗に包囲されました。
 この一文は、その出立の朝の、空は麗らかに晴れ渡つて、もうやがて間もなく桃の
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