ンの裾をとらへて、
「君、逃げるにはおよばんよ。いへば僕だつて君同様に彼等の敵なんだがね。僕は、努めて計つたのだ。」
とおごそかに唸りました。「村の平和――こいつを一番楯にして、この目出度い仮装行列の出発に際して奴等が持つてる俺達の借金証書を血祭の煙と燃やさせてしまはう――といふ僕の魂胆、どう処置するか、まあ/\あと一刻僕に任せて置き給へよ。」
私には望遠鏡がなかつたので、誰が誰やら一向に見定めもつきませんでしたが、私は堅く村長の言葉に信頼して、あとから/\三々伍々と打ち続いて来る見るも華麗な野中の行列隊が、駒の脚さばき賑々しく次第に近寄つて来る光景を、しつかりとドリアンの轡をとつたまゝ異様に颯爽たる心地で見守りました。
底本:「牧野信一全集第四巻」筑摩書房
2002(平成14)年6月20日初版第1刷発行
底本の親本:「大阪毎日新聞」大阪毎日新聞社
1932(昭和7)年1月3、5日
初出:「大阪毎日新聞」大阪毎日新聞社
1932(昭和7)年1月3、5日
入力:宮元淳一
校正:門田裕志
2009年12月9日作成
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